親知らずの全知識を解説!抜歯する基準は? 痛みは?【歯科医師監修】

親知らずの全知識を解説!抜歯する基準は? 痛みは?【歯科医師監修】

親知らずは、だいたい17~21歳の間に生えてきます。そして、多くの人が20代の中頃までに親知らずの抜歯を経験します。なぜなら、狭いところから無理矢理生えてこようとする親知らずは、トラブルの原因になることが多いからです。

 

通常、親知らずの抜歯程度の治療は「町の歯科医院」でも対応してくれます。しかし、中には、抜歯するのが難しい症例があります。そのような症例は難易度に応じて…

 

◆歯科口腔外科の処置に力を入れる歯科医院
◆総合病院・大学病院の歯科口腔外科

 

これらの医療機関で抜歯する必要があるでしょう。こちらの記事では「親知らずの抜歯」についてまとめ、中でも「上記に当てはまる歯科口腔外科での抜歯が必要な事例」を解説しています。

1.親知らずはどんなときに抜歯する?

「親知らずは抜歯するもの」と考える人が多いですが、すべての親知らずが抜歯の対象…というわけではありません。まっすぐ生えていて普通に噛めるのなら、問題なく歯として機能するはずです。

抜歯が必要なのは、以下のような親知らずです。

 

◆斜めに生えている親知らず

◆一部が歯茎に埋まっている親知らず

◆横向きで埋まっている親知らず

◆噛み合わせる相手が存在しない親知らず

まずは、これらの親知らずが抜歯対象になる理由を解説したいと思います。

1-1 斜めに生えている親知らず

現代人は顎(あご)の小さい人が増えています。そのため、親知らずが生えるために十分なスペースがなく、傾いて生えることが多いのです。さて、斜めに生えた親知らずはどのような問題を引き起こすのでしょうか?

 

多くの場合、斜めの親知らずは第二大臼歯(1つ手前の歯)の方向に傾いています。親知らずが手前に傾いていると、たとえば、次のような問題が生じます。

 

まずは、虫歯リスクが上がることです。斜めの親知らずがあると、第二大臼歯との隣接面に不自然な隙間ができます。歯ブラシは平らな面を磨く形状をしていて、隙間のある面を磨くのには向いていません。その結果、歯磨きの効率が悪くなるのです。

 

また、歯並びを悪くする原因にもなります。歯は自分が向いている方向に生えようとする性質があります。なので、第二大臼歯を向いた親知らずは、第二大臼歯の方向に伸びます。その結果、第二大臼歯をぐいぐいと押してしまうのです。歯は継続的に押されると移動するので、歯並びに悪影響が出ます。

 

1-2 一部が歯茎に埋まっている親知らず

斜めに生えてきた場合に多いのですが、親知らずの一部が歯茎に埋まっていることがあります。一部が埋まった状態の親知らずを「半埋伏智歯(はんまいふくちし)」と呼びます。一部が埋まった親知らずは、炎症の原因になります。

 

歯茎に覆われた部分は、歯ブラシで磨くことができません。そのため、歯茎の裏側などには大量の歯垢が溜まります。常に磨き残しがある状態だからです。歯垢は「細菌の塊(かたまり)」ですから、特定の場所で細菌がどんどん増殖することになります。

 

大量に増えた細菌は、いずれ歯茎に感染します。当然、親知らず周辺の歯茎に感染し、炎症を引き起こすわけです。一部が埋まった親知らずが原因の「歯茎の炎症」を指して、「智歯周囲炎(ちししゅういえん)」と言います。

 

1-3 横向きで埋まっている親知らず

中には、ほとんど真横を向いて完全に埋まっている親知らずが存在します。やはり、多くは第二大臼歯のほうを向いています。完全に横向きで埋まっている親知らずのことを、「水平埋伏智歯」と呼びます。

 

深い位置で埋まっている場合、トラブルの原因にはならないこともあります。深い位置ならば、ほかの歯に影響を与えないからです。一方、やや浅い位置で横向きに埋まっていると、隣接する第二大臼歯に悪影響を与える恐れがあります。

 

横向きの親知らずも、やはり多くは第二大臼歯のほうを向いています。そして、歯は自分が向いているほうに生えていきますから、横向きの親知らずは横に伸びようとします。そのため、横向きの親知らずは、第二大臼歯の根元を圧迫することがあるのです。

 

歯の根元(歯茎より下の部分)を「歯根(しこん)」と呼びます。歯根は、強く押されると溶けていく性質があります。なので、親知らずが第二大臼歯の根元を圧迫していると、第二大臼歯の歯根は短くなっていくのです。

 

歯根が短くなると、歯は抜けやすくなります。要するに、将来、歯を失う確率が上がるわけです。横向きの親知らずは、第二大臼歯の寿命を縮める要因になります。

 

1-4 噛み合わせる相手が存在しない親知らず

親知らずは退化が進んでいるので、上下左右の4本すべてが生えてくるとは限りません。1~3本しか生えてこない人も多いですし、中にはまったく生えない人もいます。そのため、「上は生えてきたが、下は生えない」といった状況があり得るのです。

 

「上だけ」または「下だけ」の親知らずには、噛み合わせる相手がいません。歯として機能する状態ではない…ということです。機能しないだけでなく、場合によっては反対側の歯茎を噛んで、傷つける恐れもあるでしょう。口の中を傷つける恐れがあるなら、早めに抜歯するのが得策だと思います。

 

 

2.親知らずの生え方別!抜歯の難易度

親知らずの抜歯をした人に聞いてみると、感想はさまざまです。「すごく痛かった」という人もいれば、「全然大したことなかった」という人もいます。実は、生え方によって、抜歯の難易度はまったく違ってくるのです。

 

基本的に、「抜歯後の痛み」は難易度に比例します。難しい抜歯ほど、傷口も大きくなり、痛みも強くなる…と考えてください。

 

 

2-1 上顎 / 下顎で難易度が変わる…!

上顎と下顎のどちらか…によって、親知らずを抜歯するときの難易度は変わります。原則として、下顎の親知らずを抜歯するほうが難易度は高くなります。下顎は骨密度が高く、骨が硬いからです。

 

歯は、根元が骨に埋まっています。抜歯というのは、「歯を骨から外す処置」なのです。当然、骨が硬いほど、強い力をかけて抜く必要があります。その結果、下顎の親知らずは抜歯後の傷口が痛む傾向にあるのです。

 

2-2 通常抜歯

抜歯のときは、歯を「歯槽骨(しそうこつ:歯を支える骨)」から外します。「ヘーベル」と呼ばれる器具を使い、テコの原理で歯根を脱臼させるのです。この方法で抜歯できる歯は、通常抜歯になります。別に多少、斜めに生えていたとしても、普通の方法で抜歯可能なら通常抜歯の扱いです。

 

通常抜歯の場合、抜歯の難易度は低くなります。それほど傷口は大きくならないので、縫い合わせる必要もありません。2~3日で痛みがひいて、5~7日で傷口が塞がってきます。

 

2-3 難抜歯

「歯根が骨と癒着している」「歯根が曲がっていて骨から抜けない」などの要因があれば、通常抜歯はできません。骨を削って、歯根を取り出す必要があるからです。歯茎・骨を切り開くぶん、傷口は大きくなります。骨を切開する処置が必要なら、「難抜歯」の扱いになります。

 

通常抜歯よりも、傷口の治りは遅くなります。痛みがひいてくるまでは3~5日、傷口が塞がってくるまでには10~14日ほどかかります。

 

2-4 埋伏歯

親知らずが横向きで骨の中に埋まっている場合、さらに抜歯の難易度が上がります。骨を切り開き、骨の中から歯を摘出する処置が必要になるからです。歯を分割して取り出すので、かなり大がかりな処置になります。

 

傷口はかなり大きくなり、痛みも長く続きます。痛みがひいてくるまでに5~7日、傷口が塞がってくるまでには14~20日くらいかかるでしょう。

 

2-5 そのほか、抜歯の難易度を上げる要素

そのほかにも、抜歯の難易度を上げる要素は存在します。たとえば、以下のような特徴に該当していると、抜歯は難しくなります。

 

 

◆歯の形状
歯の形状によっては、抜歯の難易度が上がることがあります。たとえば、次のような形状をしていると、歯を抜くのに苦労します。

 

・歯根が第二大臼歯の下に食いこんでいる
・歯根が抜歯に逆らう形状をしている
・歯根の一部に引っかかる箇所がある

 

◆下顎管の血管神経
下顎の骨には、「下顎管(かがくかん)」と呼ばれる管が通っています。管の内部には、下顎神経と血管が入っています。

 

親知らずの歯根は、下顎管の近くまで達していることが多いです。中には、歯根が下顎管に接触している例もあります。抜歯のとき、下顎管を傷つけると「神経麻痺」「大量出血」の恐れがあります。歯根が下顎管に接近している場合、抜歯には細心の注意を要します。

 

 

◆開口障害
顎関節症(がくかんせつしょう)などで、口が大きく開かない患者さんがいます。口がしっかり開かない場合、抜歯の処置は難しくなります。骨の切開を伴うような抜歯は、特に口を大きく開ける必要があるでしょう。

 

・先に開口障害を治療する
・全身麻酔で抜歯する

全身麻酔で抜歯する場合、口の中で普通に抜歯できなければ、「口腔外からの抜歯」を実施できます。「口腔外からの抜歯」では、顎の下を切開して外側から歯を抜きます。神経損傷など多少のリスクはありますが、ほとんど口が開かなくても抜歯可能です。

 

 

3.歯科恐怖症…!親知らずを抜歯できる!?

抜歯を困難にするのは、親知らずの生え方だけではありません。「生え方」「歯根の形状」などの要因を「解剖学的要因」といいますが、ほかにも抜歯を難しくする要因があります。それは「心理的要因」です。

 

中には、歯科治療に強い恐怖があり、「歯医者さんを見るだけで足が震える」という人もいます。治療に支障をきたすほどの恐怖心を抱いた状態を「歯科恐怖症」と呼んでいます。歯科恐怖症の患者さんには、親知らずの抜歯にあたって特別な配慮が必要です。

 

 

3-1 軽度~カウンセリング / 無痛治療

「治療に強い恐怖心を感じるが、痛みさえ感じなければ耐えられる」という場合、十分な配慮があれば、普通の方法で抜歯できるかもしれません。

 

◆丁寧なカウンセリング

人間は、何をされているのかわからないときに恐怖を感じます。「何のために、どのような処置をするのか」をきちんと説明されていれば、恐怖が和らぐことも多いです。一方的に処置をはじめるのではなく、患者さんが納得するまで説明することが大切になってきます。

 

◆無痛治療
「無痛治療」というのは、痛みを抑えた治療の総称です。まったく痛みがないことを保証するものではありませんが、客観的に見て「痛みの減少が期待できる治療機器」を使用していれば、一般に「無痛治療」と扱われています。

 

∟表面麻酔
麻酔を注射する痛みを抑えるため、事前に塗り薬・貼り薬の麻酔を用います。

∟電動麻酔器
手ぶれの影響を受けず、圧力をかけずに麻酔液を注入できます。

∟33G注射針
針の直径が細いので、刺すときの痛みを抑えることができます。

∟カートリッジウォーマー
麻酔液を体温と同じくらいに温め、麻酔が入るときの刺激を抑えます。

以上のような機器を用いることで、治療中の痛みを緩和することができます。痛みを感じる機会が少なければ、軽度恐怖症の患者さんでも落ち着いて治療を受けることが可能です。

3-2 中等度~笑気吸入鎮静法 / 静脈内鎮静法

通常の歯科治療が困難であれば、精神鎮静法を実施することが多いです。意識をぼんやりさせて、恐怖・不安を感じにくくする作用があります。

 

◆笑気吸入鎮静法
「笑気ガス」と呼ばれる気体を吸入すると、意識がぼんやりして恐怖を感じにくくなります。笑気吸入だけでは、治療・抜歯に十分なレベルの鎮痛作用は得られません。しかし、注射の痛みを感じなくする程度の鎮痛作用はあるので、「笑気吸入+局所麻酔」を併用すれば、恐怖と痛みをまとめて抑えることができます。

 

笑気ガス濃度が30%以下なら、特に危険はありません。歯科治療で使う場合、笑気ガスの濃度は30%以下なので、特別な管理は不要です。吸入を停止すれば、すぐに意識がはっきりします。笑気吸入の設備さえあれば、町の歯医者さんでも実施可能です。

 

ただし、鎮静作用には個人差があり、あまり効果がない人もいます。実際、笑気ガスを吸入しても恐怖が緩和せず、まったく治療を受けられない例も少なくありません。

 

◆静脈内鎮静法
強い鎮静作用が必要なら、「静脈内鎮静法」をおこないます。点滴から鎮静剤を静脈注射し、鎮静作用を得る方法です。薬剤の種類は全身麻酔の薬と同じですが、分量が異なります。

 

鎮静作用はかなり強く、鎮静中の出来事をほとんど記憶していません。意識がなくなるわけではなく医師の指示に従うこともできますが、「医師に話しかけられた事実」さえ覚えていない場合が多いです。

 

ただし、強い薬剤を静脈に入れるわけですから、笑気ガスのように手軽な処置ではありません。鎮静をおこなっている間は、「生体管理モニター」などで全身管理します。また、治療を終えたあとも30~60分くらいは休んでから帰る必要があります。

 

3-3 重度~認知行動療法 / 全身麻酔

静脈内鎮静法でも歯科治療ができない…という場合、重度の歯科恐怖症でしょう。中には「歯科医院の玄関をくぐれない」「歯科医院に近づくことさえ抵抗がある」といった人も存在しています。重度恐怖症を克服するには、精神科との連携が必要になるでしょう。

 

◆認知行動療法

精神科医師とコミュニケーションをとりながら、「本人の精神状態・行動」を合理的に考えて理解しなおしていく治療法が存在します。この方法を「認知行動療法」と呼びます。歯科恐怖症に限らず、さまざまな恐怖症の改善に用いられている方法です。

 

実際、薬物療法と認知行動療法を組み合わせることで、恐怖症患者の86%に改善が見られた…というデータも存在します。薬物療法だけでは10%くらいの改善率にとどまったそうなので、認知行動療法には大きな可能性があると言えそうです。

 

◆全身麻酔

口の中の状態によっては、恐怖症の改善を待っている余裕はありません。そこで、早急に治療する必要がある場合は、全身麻酔による治療を検討します。意識がなくなっていれば、歯科恐怖症の症状は現れません。重度の歯科恐怖症だとしても、歯科治療・抜歯といった処置を実施できます。

 

 

4.歯科口腔外科で実施するべき抜歯とは?

さて、「親知らずの抜歯」は本来、歯科口腔外科の処置です。口腔外科の標榜をしていない歯科は基本的に「虫歯・歯周病の治療」に関連する分野であり、「難症例の抜歯や口周りの外科手術」は歯科口腔外科の分野になります。

 

とはいえ、看板に「歯科口腔外科」と書かれていない歯科医院でも、簡単な親知らずであれば問題なく抜歯してもらえます。なるべくかかりつけの信頼できる歯科医師に抜いてもらいたいというのであればその先生に相談し、もし、かかりつけに行っても結局別の医院を紹介されて二度手間になるのが嫌であれば、はじめから歯科口腔外科を標榜している歯医者さんに行ってしまうのが良いでしょう。

 

 

4-1 重度の歯科恐怖症 / 異常絞扼反射(いじょうこうやくはんしゃ)

重度の歯科恐怖症がある場合、抜歯には特別な配慮が必要です。静脈内鎮静法が必要となった場合には、生体管理モニターなどの設備が不可欠になります。

 

あまりに重度の歯科恐怖症であれば、全身麻酔による歯科治療を検討することになるかもしれません。全身麻酔下では自発呼吸も停止するので、気管挿管して肺の空気を強制的に入れ換えなければいけません。その場合、麻酔・全身管理を担当する医師も必要になります。

 

当然、一般の歯科医院では対応できず、「総合病院・大学病院の歯科口腔外科」を受診することになるでしょう。

 

また、歯科治療を困難にする心身症は、歯科恐怖症だけではありません。口の中に器具を入れただけで反射的に嘔吐しそうになる…という人がいます。世間一般では「嘔吐反射」と言いますが、正式には「異常絞扼反射(いじょうこうやくはんしゃ)」と呼びます。

 

「口に器具が入っただけで嘔吐する(または嘔吐しそうになる)」という段階になると、通常の歯科治療はできません。基本的には静脈内鎮静法、それでも難しければ全身麻酔による治療を試みることになるでしょう。この場合もやはり、重度の歯科恐怖症と同じく、「総合病院・大学病院の歯科口腔外科」に相談する必要があります。

 

4-2 親知らず4本の同時抜歯

何らかの事情で、上下左右の親知らず4本を同時抜歯する…という人がいます。この場合、静脈内鎮静法または全身麻酔が必要です。

 

4本の抜歯には時間がかかりますが、普通の状態では、自分の意志で長く口を開けているのが困難です。そこで、鎮静・全身麻酔のどちらかを用い、長時間の治療に耐えられるようにしなければなりません。「総合病院・大学病院の歯科口腔外科」を受診する必要があるでしょう。

 

◆静脈内鎮静法の場合
多くは、静脈内鎮静法で十分です。ただ、普通の歯科治療のときと違い、治療後30~60分で帰宅するのは難しいでしょう。4本同時抜歯のあとは、食事をすることさえ困難です。身体への負担も考慮して、1泊2日の入院をするのが普通です。

 

◆全身麻酔の場合
4本同時抜歯で、さらに埋伏歯(骨の中に埋まっている状態)が含まれているようだと、全身麻酔が必要になるかもしれません。静脈内鎮静法でも、60分以上にわたり、口を開けたままにするのは困難です。しかし、全身麻酔なら最大3時間程度の治療に耐えられます。前日夜からの絶食など、さまざまな管理を要するので、多くは2泊3日の入院が必要です。

 

4-3 水平埋伏智歯抜歯術(すいへいまいふくちしばっしじゅつ)

骨の中に横向きで埋まっている親知らずを、「水平埋伏智歯(すいへいまいふくちし)」と呼んでいます。

 

歯は、生えている方向に抜く必要があります。生えている方向に引き抜かないと、「歯根を歯槽骨から脱臼させる動作」ができないからです。ということは、横向きの親知らずを上方向に引き抜くことはできません。横に引き抜く必要があります。

 

しかし、多くの場合、横向きの親知らずは隣の歯(第二大臼歯)を向いています。このままでは、第二大臼歯が邪魔になり、「生えている方向に引き抜く動作」ができません。

 

そこで、横向きで埋まっている親知らずに対しては、「水平埋伏智歯抜歯術(すいへいまいふくちしばっしじゅつ)」と呼ばれる術式をおこないます。

 

◆水平埋伏智歯抜歯術の手順
まず、歯茎と骨を切開して、埋まっている親知らずを露出させます。その後、埋まった状態のままで、歯を2つに分割します。

 

※ 状況によっては3つに分割することもありますが、基本的な手順は同じです。

 

歯を分割するときは、「歯根」と「歯冠」に分割します。

・歯根…歯の根元。骨に生えているのは、歯根です。
・歯冠…歯の上部。歯茎より上に見えている部分は歯冠です。

 

歯根と歯冠に2分割すれば、歯冠部分はすぐに取り出すことができます。

 

さて、問題の骨に埋まっている歯根の方ですが、歯冠がなくなったことでその分スペースが空きます。その隙間を利用して、生えている方向からの抜歯が可能となります。

こうして、歯根を抜けば、水平埋伏智歯を抜歯できるのです。このレベルの処置になると、普通の歯科医院では困難だと思います。「歯科口腔外科を得意とする歯科医院」または「総合病院・大学病院の歯科口腔外科」で手術を受けることになるでしょう。

 

4-4 全身疾患がある場合

全身疾患を持っている患者さんの場合、歯科治療に注意が必要です。できるだけ、「総合病院・大学病院の歯科口腔外科」で治療を受けてください。万一のとき、全身疾患を管理できる診療科目と連携可能だからです。

 

 

5.親知らずに関するQ&A

最後に、親知らずに関連する「よくある質問」をまとめたいと思います。もちろん、ご自身の健康に関しては歯科医院に相談していただくのが一番ですが、参考程度に活用していただければ幸いです。

 

 

5-1 親知らずはどうして「親知らず」って言うの?

親知らずの正式名称は「第三大臼歯」ですが、誰もが「親知らず」と呼んでいます。「親知らず」という呼び名の由来にはいくつかの説があります。

 

◆昔は、親知らずが生えるまでに親が亡くなっていたから!
昔は「50年も生きれば長生き」という時代でした。なので、子供が18歳を迎えるころには、親が亡くなっていても普通だったのです。そのため、親は「子供に親知らずが生えてきた事実」を知る機会もなかった…。これが「親知らず」の由来と言われています。

 

◆親知らずが生える年齢には、子供が親離れしているから!
親知らずが生えてくるのは18~21歳くらいです。もう、この年齢になると、歯が生えてきたことを親に報告する年代ではありません。乳歯が永久歯に生えかわるころは、親が口の中の様子を見てあげる必要がありましたが、18歳なら、自分で歯医者さんに行くでしょう。

 

親が管理する必要もなくなり、親が知らないうちに生えてくる…。これが「親知らず」の由来である…という説もあります。

 

∟海外では親知らずを何と呼ぶのか?

せっかくなので、海外での名前についても由来を探ってみましょう。

・英語…wisdom tooth「知恵の歯」
英語圏では「知恵の歯」と呼ばれています。親知らずが生えてくる年齢になれば、知恵がつき、物事の分別がつくから…だそうです。

・ドイツ語…Weisheitszahn「知恵の歯」
ドイツ語でも、やはり「知恵の歯」と呼ばれています。由来は、英語と同じです。

・フランス語…dent de sagesse「知恵の歯」
フランス語でも、「知恵の歯」です。

・スペイン語…muela del juicio「判断の歯」
スペイン語の場合、直訳すると「判断の歯」になりますが、由来は同じです。十分な判断力がある年齢になって生えてくるからです。

・イタリア語…dente del giudizio「思慮の歯」
イタリア語だと、直訳は「思慮の歯」または「判断力の歯」になります。やはり、思慮深く、大人としての判断力がある年齢になって生えてくるからでしょう。

・韓国語…사랑니「愛の歯」
韓国語では「愛の歯」です。青年期を迎えて、愛を理解する年齢になって生えてくるから…という由来のようです。

 

5-2 親知らずを抜歯すると小顔になるってホント?

Web上では「親知らずを抜くと小顔になる」といった情報を見かけることがあります。しかし、これはあまり信用しないほうが良いでしょう。

 

歯を抜くことで「筋肉が痩せる」「歯槽骨が細くなる」などと言われていますが、外見でわかるほどの変化は期待できません。恐らく、仮に変化があったとしても、1mm未満の変化にとどまると思います。

 

歯は身体の一部なので、「小顔になると聞いたから…」といった理由で抜歯するのは避けてください。歯科医師に相談して、「口の中の健康を守る上で、本当に抜歯するべきかどうか」を基準に判断しましょう。

 

5-3 親知らずが歯並びを悪くするって噂はホント?

斜めの親知らずは、歯並びに悪影響を与えることがあります。

 

斜めに生える親知らずは第二大臼歯(1つ手前の歯)に向かって傾くことが多いです。歯は自分が向いている方向に生えるので、第二大臼歯を向いていれば、第二大臼歯に向かって生えていきます。その結果、第二大臼歯を圧迫することになります。

 

親知らずに圧迫された第二大臼歯は、手前に動いてしまいます。歯は、同じ方向から押され続けると、だんだん移動するからです。親知らずに押された第二大臼歯は、連鎖的に第一大臼歯を圧迫するでしょう。こうして、全体の歯並びに悪影響が及びます。

 

5-4 親知らずは、どうして虫歯になりやすいの?

親知らずは虫歯になりやすく、「生えてきて、すぐ虫歯になった」という人も珍しくありません。親知らずの虫歯リスクが高くなるのには、主に4つの理由があります。

 

◆位置的に歯ブラシが届きにくい
親知らずは一番奥にありますから、歯ブラシが届きにくくなります。親知らずの表裏をしっかり磨くのは難しく、どうしても歯垢が溜まりやすくなります。

 

◆斜めに生えることで歯磨きが難しくなる
親知らずは、斜めに生えてくることの多い歯です。斜めになっていると、周囲の歯との隣接面に不自然な隙間ができます。歯ブラシは「隙間のある面」を磨くのに適した形状ではありません。そのため、隙間の部分に磨き残しが増えるのです。

 

◆歯茎に埋まった部分があり、磨けない
一部が歯茎に埋まったままの親知らずはさらに問題です。歯茎の裏に隠れた部分は、物理的に歯ブラシが届きません。歯磨きによる衛生管理は、きわめて難しくなります。

 

◆噛み合う歯が存在せず、自浄作用が働かない
歯には自浄作用があり、「繊維質を噛んだときに擦(こす)れて、自動的にきれいになる」といった性質があります。しかし、親知らずは「噛み合う相手」が存在しないことも多く、自浄作用が働きにくいのです。実際、「噛み合う相手」の存在しない歯は、虫歯リスクが上がります。

 

5-5 親知らずを抜かないで残すと、何かの役に立つの?

当然ながら、すべての親知らずが抜歯対象になるわけではありません。真っ直ぐ生えてきて、噛み合う相手が存在するなら、きちんと歯の役割を果たします。

 

親知らずを保存するメリットは、「歯として機能すること」だけではありません。主なメリットとしては、次の2つが挙げられます。

 

◆第二大臼歯を失ったとき、ブリッジの土台になる
親知らずを残しておくと、将来的に「第二大臼歯を失った場合」の選択肢が増えます。

 

失った歯を補う治療を「補綴(ほてつ)」と言います。入れ歯・インプラントなどが補綴(ほてつ)の代表例です。そういった補綴(ほてつ)の中に、「ブリッジ」という方法があるのをご存じでしょうか?

 

「A-B-C」と3本の歯が並んでいたとします。「B」の歯が抜歯になったとき、「A」と「C」を土台にして、「B」の部分に義歯を入れることができます。「A」と「C」を削り、クラウン(かぶせ物)を入れられる状態にしたあと、「A-B-C」がひと続きになった3本分のクラウンをかぶせるのです。「2本の土台に、3本分の歯を立てる方法」です。こうすれば、失われた「B」を補うことができます。これが「ブリッジ」と呼ばれる方法です。

 

ここまでに解説したとおり、ブリッジの条件は「両隣の歯が存在すること」です。第二大臼歯を失ったとき、親知らずと第一大臼歯の両方が存在していれば、ブリッジの条件を満たします。つまり、ブリッジを選択肢に含めることができます。親知らずを保存しておけば、補綴(ほてつ)の幅が広がるのです。

 

◆歯牙移植(しがいしょく)に利用できる
歯を失った場合の治療方法に、「歯牙移植(しがいしょく)」というものが存在します。ほかの場所にある歯を移植して、別の場所で使う…という方法です。

 

親知らずを残しておけば、第一大臼歯・第二大臼歯を失ったとき、歯牙移植が可能になります。親知らずを移植して、失った歯を補うわけです。

 

歯牙移植は、次の条件を満たしていれば保険適用になります。

 

∟移植に使う歯が、親知らず・埋伏歯のどちらかである
∟移植先の歯が、まだ存在している

 

第一大臼歯・第二大臼歯が虫歯・歯周病で末期状態になったとき、親知らずが残っているなら、「歯牙移植」という選択肢があります。うまく定着しても5~10年で寿命が来ることが多く、決して永久的な治療法ではありません。しかし、噛んだ感覚はインプラントより自然なので、検討の余地はあるでしょう。

 

◆歯牙移植の手順

1.残すことができなくなってしまった歯(第二臼歯)と不要な歯(親知らず)を抜歯します。

2.不要な歯(親知らず)を第二臼歯の場所に埋め込みます

3.歯茎を縫い合わせて安静にします

 

◆将来、入れ歯になった時に役に立つ時がある
出来るだけ自分の歯を残すように手入れや注意をしていても、残念なことに何本かの歯は喪失してしまうことがあります。特に大臼歯の部分は喪失してしまうと物を食べるのに大きな障害になってしまいます。

 

1〜2本の喪失ならば、その状況によってはブリッジで治せる可能性があり、現代ではインプラントという治療の選択肢ももちろんあります。
しかし、人それぞれ色々な条件でインプラントが出来ない事もあり、ブリッジの適応症例でないこともあります。

 

このような時には失った歯を補うためには入れ歯を作らなければなりません。
全く歯のない状態(無歯顎)で総入れ歯を作る時もありますが、しっかりした歯が残っていれば、そこに入れ歯を固定、安定させるための鉤を付けるのが通常です。特にしっかりした奥歯に鉤を付けると入れ歯が安定します。

 

きちんと生えている親知らずは、時としてその入れ歯を安定させる要として利用できることがあります。

 

 

5-6 麻酔が切れるまでには、どれくらいかかる?

普通は、抜歯を終えてから1~2時間で麻酔が切れます。ただ、下顎の親知らずを抜歯するときは、下顎の神経全体をマヒさせる「伝達麻酔」をおこなう場合があります。伝達麻酔をしたなら、麻酔が切れるまでに3時間以上かかることもあるでしょう。

 

麻酔が切れると、多少は傷口が痛むと思います。痛みが心配であれば、麻酔が切れる前に1回目の痛み止めを服用してください。痛み止めの薬は、痛み出す前に飲んだほうが作用を実感しやすいです。

 

基本的に、痛みのピークは「抜歯当日の夜」です。夜中に痛みで目が覚める…ということがないように、就寝前にも痛み止めを服用してください。

 

5-7 親知らずの抜歯後、気をつけることはある?

抜歯後に気をつけていただきたいのは、「傷口をドライソケットにしないこと」です。ドライソケットというのは、「抜歯した傷口が、骨まで直通の穴になった状態」を意味します。

 

本来、抜歯後の傷口は「血液がゼリー状に固まったもの」で覆われます。このゼリー状の物質を「血餅(けっぺい)」と呼びます。粘膜に傷ができたとき、「かさぶた」の代わりになるものだと考えてください。

 

しかし、時折、血餅(けっぺい)が作られなかったり、脱落したりする場合があります。血餅が存在せず、骨まで直通になった傷口がドライソケットです。ドライソケットになると、骨の神経が刺激を受けるので、強い痛みが生じます。2週間~1か月ほど痛みが続くので、できる限り、避けたい状況です。

 

抜歯後、ドライソケットのリスクを下げるには、次のような部分に気をつけてください。

◆血餅(けっぺい)ができるのを妨げる要因
・抜歯前後のタバコ
・抜歯後の飲酒 / 運動 / 入浴
・経口避妊薬(ピル)の服用
・血液をサラサラにする薬の服用

血液のめぐりを良くしたり、悪くしたりすると、血餅(けっぺい)が作られにくくなります。出血が増えすぎると血液が固まりにくくなりますし、減りすぎると今度は血液不足で血餅(けっぺい)が作れません。

◆血餅(けっぺい)が外れる要因
・指 / 舌で傷口をさわる
・歯ブラシが傷口に当たる
・ブクブクうがいをする
・何かを吸いこむ動作をする

 

物理的な力が加わると、血餅(けっぺい)が外れることがあります。ブクブクうがいの水圧でも外れることがありますし、「ストローで何かを飲む」「麺類をすする」などの吸いこむ動作をするだけでも、傷口から吸い出してしまう恐れがあります。

 

5-8 親知らずの抜歯後、どんな食事なら食べられる?

抜歯後の傷口が治ってくるまでは、血餅(けっぺい)が外れないように注意しなくてはなりません。血餅(けっぺい)は「血液がゼリー状になった塊」で、傷口を塞ぐ役割を果たすものです。

 

血餅(けっぺい)が外れると、傷口は「骨まで直通の穴」になり、強い痛みが生じます。この状態を「ドライソケット」と呼びます。抜歯後は、「ドライソケットの原因になる食べ物」を避けることが大切です。

 

◆ドライソケットの原因になる食べ物
ドライソケットを招く食べ物には、下記が挙げられます。

 

∟アルコール類
抜歯当日は、飲酒を避けてください。アルコールには血管を拡張する作用があるので、出血量が増加し、血が固まりにくくなります。そのため、血餅(けっぺい)が作られにくくなり、ドライソケットのリスクが上がるのです。

 

∟吸いこむ動作が必要なもの
「そば・うどんなどの麺類」「ゼリー状の栄養食品(アルミパウチに入ったもの)」など、吸いこんで食べる食品はNGです。傷口が塞がってくるまでの間、吸いこむ動作をしてはいけません。傷口にはまっている血餅(けっぺい)を吸い出して、ドライソケットを招く恐れがあるからです。

 

∟硬い食べ物
バゲット・クラッカー・煎餅など、硬い食べ物も避けましょう。破片が傷口に食いこむと痛みますし、血餅(けっぺい)に引っかかってドライソケットの原因になるかもしれません。傷口の表面が固まってくるまで、硬い食べ物は控えてください。

 

∟香辛料など、刺激の強い食事
香辛料を大量に使った食事は、傷口が痛む原因になります。また、傷口が痛んだときにブクブクうがいで洗い流そうとすると、今度は水圧で血餅(けっぺい)を外してしまうかもしれません。傷が治ってくるまで、刺激物はNGです。

 

5-9 抜歯後にまわりが腫れた…! どうすれば良い?

親知らずの抜歯後、傷口の周囲が腫れることがあります。多少、腫れるくらいなら普通の経過ですが、たまに傷口が細菌感染を起こして、ひどい炎症を起こすことがあります。

 

基本的に腫れのピークは、抜歯後3日くらいです。3日経過しても、腫れがまったく治まらないようなら、抜歯した歯科医院に連絡してください。

 

また、抜歯後に抗生物質が処方されている場合は、きちんと最後まで飲みきってください。自己判断で服用をやめると、感染リスクが増大します。

 

5-10 親知らず抜歯後の穴は、どれくらいで塞がる?

抜歯後の穴が塞がるまでの期間は、傷口の大きさによって違います。基本的に「抜歯の難易度が高いほど、傷口の穴は大きくなる」と考えてください。抜歯の難易度が低い順に、穴が塞がってくるまでの目安を掲載します。

 

◇通常抜歯
何ごともなく抜歯できた場合は、通常抜歯になります。痛みがひいてくるのが抜歯後2~3日、傷口がだいたい塞がってくるのは抜歯後5~7日です。しかし、歯茎が元通りに固まるには、1か月ほどかかります。

 

◇難抜歯
骨を切り開く必要があった場合は、難抜歯になります。痛みがひいてくるのが抜歯後3~5日、傷口が塞がってくるのは抜歯後10~14日です。歯茎が抜歯前と同じように固まるまでの期間は個人差があり、1~3か月といったところでしょうか。

 

◇埋伏歯
骨の中に横向きで埋まっている親知らずは、埋伏歯の扱いです。痛みがひいてくるのは抜歯後5~7日、傷口が塞がってくるのは抜歯後14~20日が目安になります。歯茎がしっかりと固まるのには3~6か月かかることもあるでしょう。

 

◇ドライソケット
傷口が「骨まで直通の穴(ドライソケット)」になった場合、治るまでに時間がかかります。痛みがひいてくるまでに14~30日、表面が塞がってくるまでは2~3か月かかることも珍しくありません。歯茎が元通りになるまでには、7か月くらい必要です。

 「生え方」「歯根の形状」により、親知らずを抜歯するときの難易度は大きく変わります。あれこれと悩むよりも、まずは歯科医院に相談して、検査してもらうことが親知らずと向き合う第一歩です。

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「複雑な生え方をしている場合」「歯科恐怖症で抜歯が怖い場合」などは、幅広い抜歯に対応できる歯科口腔外科に相談してみてはいかがでしょうか?

監修日:2017年11月30日
遠藤三樹夫 先生監修
経歴・プロフィール

出身校:大阪大学
血液型:O型
誕生日:1956/11/09
出身地:大阪府
趣味・特技:料理