1.顎関節症の治療方法の選択
顎関節症が軽い場合、時間の経過とともに治るケースもありますが、慢性化するときは病院へ行く必要があります。
1-1 顎関節症の治療目的
顎関節症の治療目的は、主に3つあります。1つ目は顎の負担を減らすこと、2つ目は痛みを軽くすること、3つ目は顎の機能を回復させることです。これらの治療は、家庭でもすぐに実践できるものもあり、軽い顎関節症の症状は歯医者さんへ行かなくても対処できる可能性があります。
1-2 自分で行う治療
自分で行う治療は、マッサージ、湿布、日常生活のケアなどがあります。これらの治療は、身体への負担が少なく、すぐにできる治療のため、歯医者さんでもすすめられることがあります。
1-3 歯科口腔外科で行う治療
病院で行う治療は、スプリント療法、理学療法、薬物療法、認知行動療法などあります。顎関節症は、一般的に歯科口腔外科で治療します。歯科口腔外科とは、口の中や顎の周辺の病気を診るところです。顎関節症は、一般歯科よりも歯科口腔外科での治療が適切です。
これは、顎の骨、変形、関節内の診断が必要だからです。もし、近所に歯科口腔外科がないという場合は、かかりつけの歯科医院へ行き紹介状を書いてもらうとスムーズに治療を進めることができるはずです。
2.自分でできる顎関節症の治療方法
自分でも、すぐできる簡単な顎関節症の治療法をご紹介します。
2-1 マッサージ
顎の筋肉が痛むときに、マッサージすると血行が良くなり痛みが軽くなります。コリを感じるところを中心に、円を書くように揉みほぐします。
2-2 湿布をする
顎が急に痛み出した場合は、冷湿布で患部を冷やします。冷やすことで痛みや腫れが軽くなります。逆に、顎が慢性的に痛い場合は、温めたタオルなどを使い、温湿布します。1日数回温湿布すると、痛みや患部の緊張が和らぎます。
2-3 日常生活で注意する
自分で行う治療は、自分の好きな時間に自由にできる一方でおろそかになってしまうこともあります。忘れずに続けるために、自分に必要なことはメモをするなど書き記し、常に目に付く場所に置きましょう。
①食べるときの注意点
顎を安静にするために、食事はやわらかいものにします。
- 食べ物は、ひと口で食べることできるサイズにカットする
- 噛む回数が多い、硬いものやガムなどは食べない
②日常生活の注意点
顎を押さえつける動作や顎のまわりの筋肉を伸ばす動作は、顎に大きな負担をかけます。
- 頬杖をつかない
- 横向きで寝そべった状態でテレビや読書をしない
- あくびをするときは気を付ける
③仕事中の注意点
デスクワークで長時間椅子に座ると、背中がまがり、顎が前に出た悪い姿勢になります。
- デスクワークをするときは、腰、足、膝の角度を90度にする
- 足組みをしない
- 休憩をする
④歩くときの注意点
正しい姿勢にすると顎の位置も正しくなります。
- ハイヒールは、身体に負担がかかるため、毎日履かないようにする
- 電車でつり革をつかむときやカバンを持つときは、左右交互にする
⑤寝るときの注意点
あおむけで寝ることが理想です。
- 顎の関節がゆがむ、うつぶせ寝、横向き寝は避ける
- 寝る前に、背中で手を組み、顎と前に突き出すストレッチをして背中をほぐします
3.歯科口腔外科でできる治療方法
現在、顎関節症の治療は非常に進んでおり、歯科口腔外科ではさまざまな治療法があります。
3-1 スプリント療法
スプリントとは、プラスチック製のプロテクターのことをいいます。上または下の歯列の形に合わせてスプリントをつくり、それを夜間に装着するという簡単な方法です。歯ぎしりや食いしばりの害を少なくしたり、顎にかかる負担を軽くしたりする効果があります。
3-2 理学療法
理学療法とは、痛みをやわらげて機能を回復させる治療です。
①マニュピレーション
整体のように歯科医師が両手で下顎を一度下方にずれしてから、前方に移動させる治療法です。痛みの強い人には、麻酔注射をして行います。
②マイオモニター
マイオモニターとは、筋肉をマッサージする機器です。筋肉の緊張を取り除く治療法です。
③電気刺激療法
皮膚を通して、神経に電気刺激を与えて痛みを軽くする治療です。ペースメーカーを装着している人には行えません。
④超音波療法
顎周辺には、超音波を吸収しやすいコラーゲンの組織があります。超音波は、その組織に熱を与え、血流が促進します。この効果により顎の炎症や痛み、腫れがやわらぎ、口が開きやすくなります。
3-3 薬物療法
薬を服用する治療です。様子を見ながら、数週間から数カ月服用し、症状が落ち着いたら薬を減らしていきます。
①鎮痛剤 炎症や痛みを抑えるため薬です
②筋弛緩薬剤 筋肉の緊張をコントロールする薬です。
③精神安定剤 顎関節症の痛みから不安を感じたり、精神的なことが原因で痛みを感じたりするときに処方される薬です。
3-4 認知行動療法
悪い姿勢、頬杖、歯ぎしりなどの悪い癖を自分自身で認識し、それを取り除くような行動ができるように指導する治療法です。もし歯科医師が、顎関節症の原因に心理的影響が大きいと判断した場合は、専門知識がある臨床心理士を紹介してくれるはずです。
4.手術による顎関節症の治療方法
上記のような治療を続けても、改善が見られない場合は最終手段として手術による治療になります。
4-1 関節腔内洗浄療法
顎の関節部に麻酔を行い、針を刺し、関節内に溜まった痛みを起こす物質を洗い流す治療法です。
4-2 関節鏡手術
関節の炎症が強くなると、骨や組織に癒着が起きます。この癒着部分を切り離す治療が、関節鏡手術です。関節鏡とは、内視鏡の一種です。耳の前の皮膚を2ミリ程度切開し、ここから内視鏡を入れて観察しながら、小さな器具を使って癒着部分を剥がします。
4-3 開放性関節手術
関節鏡手術でも痛みが改善しない場合、顎関節をメスで切り開いて変形した関節部分を切除する治療法です。顎関節症は簡単にいうと顎のズレです。姿勢など、日常生活の悪い習慣から顎がズレしまうこともあり、軽い場合はほとんどが自然に治ります。それでも、病院に行けば、症状の程度に合わせて治療を受けることができます。
顎の痛みが続いたり、日常生活に支障が出たり、苦痛を感じるときは、悪化させないためにかかりつけの歯医者さんや歯科口腔外科へ行くことを検討してみてはいかがでしょうか。
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監修日:2016年07月28日
中井雄一郎 先生監修
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