歯医者が断るインプラント治療の症例「骨吸収」のしくみとは

歯医者が断るインプラント治療の症例「骨吸収」のしくみとは

歯を支える骨が痩せてくる骨吸収は、歯の健康の大敵です。骨が痩せてくるというと、カルシウム不足といった原因が思い浮かぶと思いますが、歯を支える歯槽骨は、身体の他の骨と違って、骨が痩せてしまうさまざまなリスクにさらされています。この記事では、骨吸収について詳しくお伝えした上で、歯槽骨が痩せてくるいろいろな原因や、痩せた骨を再生する先進治療、骨吸収を予防する方法などについて、詳しくご紹介いたします。

 

この記事の目次

1章 骨吸収ってどんなもの?

歯科口腔外科の分野で骨吸収という場合、主に歯槽骨(歯を支える骨)で起こる骨吸収を指します。骨吸収とは、いわゆる骨が痩せ衰えていくことで、歯槽骨が痩せる場合、さまざまな原因があります。まずは骨吸収のしくみとさまざまな原因について、見ていきましょう。

 

骨吸収とは?

身体のあらゆる組織と同様に、骨も新陳代謝を行っています。つまり、骨の古い部分は、常に新しい骨に取って代わるというサイクルを繰り返しています。古い骨はやがて分解され減少していきます。これを骨吸収といいます。その一方で、新しく骨が作られます。これを骨形成といいます。このバランスが崩れて、骨吸収ばかりが進行すると、骨が痩せていってしまいます。

 

歯槽骨で骨吸収が進む原因

骨吸収が進む代表的な疾患としては、骨粗鬆症が上げられます。これは、カルシウム摂取量の不足や女性ホルモンの低下などが原因ですが、歯槽骨の骨吸収には、こうした要因の他にも、さまざまな原因があります。

 

原因1.歯周病

歯周病の原因菌が放出する毒素は、歯肉に炎症を引き起こすだけでなく、歯槽骨の骨吸収を招きます。いわば、毒素から逃れるように骨が後退していくようなイメージです。

初期は痛みを感じませんが、やがて歯槽骨が歯を支えられなくなり、歯がグラグラしてきます。歯周病が歯を失う最大の原因となっているのは、骨吸収を引き起こすからなのです。

 

原因2.歯ぎしりや食いしばりの癖

歯ぎしりや食いしばりの癖があって、歯が強く揺さぶられたり、日常的に過剰な力が加わっていると、歯槽骨が痩せてきます。若いうちは新陳代謝の能力が高く、骨吸収はあまり見られないものですが、30代以降は、こうした癖が骨吸収の原因にもなるのです。

初めは痛みを感じないため、気づきにくいでしょう。過剰な負担が続くと歯に亀裂が入ってしみたり、ときとして、歯の一部が破折してしまったり、歯の周囲組織に炎症が起きて、噛んだときに痛んだりする場合があります。

 

原因3.ブリッジや入れ歯

抜けた歯をブリッジや入れ歯で補う場合、それを支える両隣の歯に大きな負担がかかります。歯ぎしりや食いしばりと同様に、過剰な力が加わることで、ブリッジや入れ歯を支える歯の歯槽骨が痩せてきます。

ブリッジや入れ歯による負担から、歯の中の神経が充血を起こしたり周囲の組織に炎症が起きたりして、痛むことがあります。

 

原因4. 骨の中にできる嚢胞

歯槽骨や下顎の骨の中に嚢胞と呼ばれる袋状の病巣が出来ることがあります。多くの場合は虫歯が進行してしまった結果、歯の神経が死んで腐ってしまい、その細菌が歯根の先端周辺の部分の歯槽骨の中に膿の袋を作ってしまう歯根嚢胞と呼ばれるものです。歯を叩いたときや噛んだときに、痛みがあります。

またときとして急性発作を起こすと、歯茎や頬が腫れてズキズキ痛むようになってしまいます。頻度は少ないですが、先天的な歯の周辺組織由来の嚢胞もあります。

このような嚢胞は放置していると長い時間をかけて、まわりの骨を押し広げるように歯槽骨の吸収を促していきます。

 

原因5.抜けた歯の放置

歯を抜けたまま放置しておいても痛みはありませんが、抜けた部分の歯槽骨が次第に痩せていきます。歯槽骨の骨形成は、適度な噛む圧力によっても促されるもので、歯が抜けて歯槽骨に負荷がかからなくなると、骨吸収が進んでいきます。

食いしばりのような過剰な負荷だけでなく、まったく負荷がかからないのも歯槽骨が痩せる原因になるのです。

 

原因6.歯肉の腫瘍

口内にできる腫瘍には、さまざまな種類がありますが、特に歯肉にできる腫瘍では、歯槽骨の吸収を引き起こすことがあります。悪性腫瘍だけでなく、良性腫瘍でも、発症した部位によっては、歯槽骨が痩せてしまうことがあります。悪性腫瘍は進行して骨の中の神経まで冒すようになると、痛みが出る場合が多いです。

 

2章 歯槽骨の骨が痩せる弊害は?

歯槽骨が骨吸収を起こす弊害を、一言で説明するなら、歯を支える土台が弱くなるといえます。具体的に、どのような弊害があるのか、詳しく見ていきましょう。

 

歯並びが乱れてくる

歯ぎしりや噛み締めといった過度の圧力や、歯周病などにより、歯槽骨が痩せてくると、歯並びが悪くなってきます。特に、抜けた歯を放置している場合には、その部分の骨が痩せて、さらに両隣の歯が、隙間を埋めるように倒れ込みやすくなるので、歯並びが大きく乱れやすくなります。

 

骨吸収が周辺に広がる

抜けた歯を放置している場合、抜けた歯の真下の骨が痩せていきますが、その部分だけがきれいに陥没していくというわけではなく、少しずつ左右に広がりながら痩せてくるので、両隣の歯を支える骨も次第に痩せていきます。

 

インプラントが埋入できない

これは、インプラント治療をする際の問題点ですが、抜けた歯を放置している期間が長ければ長いほど、骨吸収が進行して、インプラント(チタン製の人工歯根)を支えるのに十分な骨量がなくなり、インプラント治療ができないケースもあります。この場合は、歯槽骨を増すための治療が必要となります。詳しくは3章で説明します。

 

3章 骨吸収で痩せてしまった骨の再生法

かつては、骨が痩せている場合、インプラント治療ができないものでした。しかし近年では、骨量を増すためのさまざまな治療技術が進歩し、歯槽骨が痩せていてもインプラント治療が可能となっています。歯槽骨のさまざまな再生治療をご紹介しましょう。

 

自家骨や人工骨を使った方法

 

・GBR法

インプラント治療で使う人工歯根は、直径およそ3ミリから5ミリ弱程度のチタン製のネジになっています。骨が痩せていて、主にインプラントを埋め込むための十分な幅がない場合、この太さのネジを支えることができません。そこで、行われるのがGBR法です。自家骨や人工骨で幅が足りない部分を埋めて、骨を再生させることで、インプラントを支える幅を確保します。

 

・サイナスリフトとソケットリフト

人工歯根のネジの長さは、およそ6ミリから18ミリ程度ですが、骨の厚みが足りない場合には、ネジが突き抜けてしまい、しっかり固定できない場合があります。特に、上顎の骨には、鼻腔につながる上顎洞という空洞があり、歯槽骨の厚みが足りないと、ネジの先端が上顎洞に突き抜けてしまいます。サイナスリフトやソケットリフトは、ともに骨の厚みを増すための治療法です。サイナスリフトは、歯槽骨のサイドから人工骨を補填するもので、ソケットリフトはインプラントを埋め込む位置から人工骨を補填します。

 

血液成分を使った骨の再生療法

 

・PRP再生療法

PRPとは、患者さんから採取した血液から、血小板を分離して濃縮し、それに凝固剤などの添加物を加えたものです。血小板には、組織を再生させる作用があるので、これを骨の再生に使う自家骨や人口骨に混ぜることで、骨の再生を促進させます。

 

・CGF再生療法

CGFとは、血液中にある傷の治りを促進させる作用があるフィブリンを使った、骨の再生法です。患者さんの血液から、フィブリンや血小板を分離して作ったCGFを、必要箇所に充填することで、骨の再生を促進します。PRPと違い、添加物を加えず、すべて患者さん自身の血液のみから作られるので、拒絶反応や感染のリスクが少ない方法となっています。

 

4章 骨吸収の予防法

歯周病の治療

歯を失う最大の原因であり、骨が痩せる主な原因といえるのが歯周病です。歯周病の治療法は明確で、歯周病を引き起こす原因菌を増やさないことに尽きます。基本治療では、歯周病菌の棲み家となる歯垢や歯石の除去を行い、内服薬や薬剤の塗布などで、原因菌の殺菌を行います。歯周病は、一度治療すればOKというものではなく、その後も原因菌を増やさないよう、生涯を通じて、日々の徹底したセルフケアや歯医者さんでの定期的なチェックが肝心です。

 

噛み締めなどの癖の改善

噛み締めや食いしばりの癖がある場合には、前述した通り、過剰な圧力がかかることによって歯槽骨が痩せてきます。マウスピースで、歯への圧力を軽減するのが基本治療ですが、癖を根本的に解消することが肝心です。こうした癖は、無意識に行うことが多いので、癖を自覚するための認知行動療法などによって、解消していきます。

 

インプラント治療

歯が抜けた場合、できるだけ早く抜けた部分を補う必要があります。両隣の歯が倒れ込んできて、歯並びが乱れますし、隣の歯とアーチ状に支え合う力が失われるので、噛む力が全体的に落ちるからです。しかし、ブリッジや入れ歯では、残念ながら抜けた部分の骨が痩せることは避けられません。
さらに、ブリッジや入れ歯をかけると、両隣の歯に過剰な力がかかり、骨が痩せるリスクが高まります。人工歯根を埋め込むインプラント治療であれば、抜けた部分には適度な圧力がかかり、両隣の歯には過剰な力が加わらないので、骨が痩せることを防ぐことができます。

 骨は常に古い部分が吸収され、新しい骨が形成されていることを覚えておきましょう。特に、歯槽骨はデリケートで、歯周病や歯根嚢胞、食いしばり、抜けた歯の放置など、さまざまな原因によって、骨吸収が進みやすい部分です。抜けた歯の治療法として、ブリッジや入れ歯が一般的ですが、どちらも骨吸収を進行させるリスクがあります。歯を失うことは、歯を支える骨も衰えさせるものなのです。それを回避するための有効な治療法がインプラント治療といえます。

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監修日:2017年11月23日
遠藤三樹夫 先生監修
経歴・プロフィール

出身校:大阪大学
血液型:O型
誕生日:1956/11/09
出身地:大阪府
趣味・特技:料理