体内に石ができる疾患は、尿管結石や胆石ばかりではありません。唾液を分泌する器官である唾液腺にも、石ができて、唾液が流れにくくなったり、完全に詰まってしまうことがあるのです。これを唾石症といいます。唾液が多く分泌される食事中に、腫れたり痛んだりするのが一つの特徴です。この記事では、唾石症の発症する部位による症状や、放置するリスク、唾石症の一般的な治療法や予防法などについて、詳しくご紹介いたします。
体内に石ができる疾患は、尿管結石や胆石ばかりではありません。唾液を分泌する器官である唾液腺にも、石ができて、唾液が流れにくくなったり、完全に詰まってしまうことがあるのです。これを唾石症といいます。唾液が多く分泌される食事中に、腫れたり痛んだりするのが一つの特徴です。この記事では、唾石症の発症する部位による症状や、放置するリスク、唾石症の一般的な治療法や予防法などについて、詳しくご紹介いたします。
この記事の目次
唾石症(だせきしょう)とは、唾液を分泌する唾液腺の排出管に石ができる疾患です。唾液腺には、その部位によって、耳下腺、舌下線、顎下腺がありますが、主に顎下線に発症します。唾石症の原因や、主な症状について見ていきましょう。
唾石症は、唾液腺や導管の炎症、唾液の停滞、さらに唾液の性状の変化などにより起こります。
石が小さいうちは、唾液の分泌が排出されにくくなり、石が大きくなって唾液腺の排出管を完全に塞いでしまうと、唾液が排出できなくなります。
唾液の排出管が完全に詰まると、唾液が出ないばかりでなく、痛みも生じます。ものを食べようとしたり、食べている最中に唾液腺のある顎の下(顎下腺)が腫れ、激しい痛みが起こり、しばらくすると徐々に症状がなくなっていくのが特徴です。
顎下線の場合には、顎の左右どちらか、結石のあるところが腫れるようになります。また、耳下腺の場合には、耳の前方から下にかけて、腫れてきます。唾液の分泌が活発になる、食事中に腫れることが多く、食後しばらくすると腫れが引いてきます。
唾液腺が流れにくくなると、細菌が唾液腺の中に侵入しやすくなり、急性の唾液腺炎を引き起こすリスクが高くなります。唾液腺炎を発症すると、唾液線が腫れて痛みをともない、炎症の開口部分から、膿が出てくるようになります。また、耳下腺の場合は、耳下腺炎を伴い、髄膜炎や脳炎を引き起こす可能性もあります。詳しくは3章でご紹介します。
1章でご紹介したような、典型的な症状があれば、歯科口腔外科での問診をはじめ、視診や触診によって、診断できます。また、結石の大きさや形状の診断には、レントゲンや歯科用CT(組織を3次元的にスキャンできる特殊なレントゲン装置)が用いられます。
小さな結石の場合には、唾液腺のマッサージによって、唾液の出口方向に誘導することで、石を取り除くこともできます。ただし、炎症を伴っていることも多いので、抗生剤を投与することも行われます。
・顎下腺や舌下腺の結石
排出管の出口付近に結石が見られる場合には、口内から唾液腺を切開して、石を取り除きます。排出管の奥に石がある場合には、顎の下を切開して、結石を唾液腺ごと取り除く手術を行います。
・耳下腺の結石
耳下腺は、唾液腺の中でも、もっとも唾液の分泌量が多く、結石が自然に排出されることもあります。従って、抗生剤を投与しながら経過観察が基本です。手術をする場合は、耳下腺を切開して、石を取り除きますが、後遺症のリスクが伴います。耳下腺の結石に関しては、3章で詳しくご紹介します。
耳下腺の結石は、自然に排出されることが多いとはいっても、唾石症の中では、もっとも注意が必要となります。耳下腺の結石は、耳下腺炎を伴っているリスクがあるからです。詳しく見ていきましょう。
耳下腺炎を起こしていると、おたふく風邪と同じような、高熱や頭痛、吐き気といった全身症状が見られます。さらに、耳下腺炎を放置していると、脳炎や髄膜炎(脳を覆う保護膜の炎症)を引き起こす可能性もあります。
耳下腺炎を伴っているケースが多いので、まずは、抗生剤やステロイド剤、痛み止めなどを処方して、疾患の経過観察を行いながら、自然に結石が排出されるのを待つ、保存治療が基本です。
前述した通り、自然排出できない場合には、外科手術となりますが、頸部を耳下腺まで切開して、耳下腺内にある石を取り出すので、大掛かりな手術になります。また、術後の後遺症として、顔面神経麻痺や唾液腺の詰まりが、高い確率で生じるものです。保存治療を第一にする理由がここにあります。
前述した通り、唾石症の根本的な原因ははっきりと分かっていません。従って、予防に直結する方法も確かなものはありませんが、普段から唾液の分泌を促し、唾液腺の通りを良くしておくことがポイントといえます。
よく噛んで食べることはもちろん、耳から顎の下にかけての唾液腺を、外からマッサージするだけでも、唾液の分泌が促されるものです。普段から通りを良くしておけば、異物が入っても、停滞して石化することなく排出されるようになります。
唾液の分泌を促すことは、口腔乾燥症(ドライマウス)の改善にも、通じるものです。従って、水分を多く摂ることを心がけたり、唾液の分泌を促す梅干しなどを食べたり、口呼吸を改めるなど、口内が潤う要因を増やすことも、一つのポイントといえます。
唾石症では、顎下線では顎の下周辺が痛み、耳下腺では耳の横から下にかけての腫れや痛みになるので、どの診療科にかかったら良いのか分からない場合もあるでしょう。この場合、口内や口周辺をはじめ、顎や頬、顔面周辺の疾患を幅広く診療できる歯科口腔外科に診てもらうのが得策です。
唾石症は、顎下線にできることが多く、顎下線の場合には、外科手術に至っても日帰りで治療できる場合もあります。ご紹介した症状を参考にして、少しでも違和感があるなら、結石が大きくなる前に、速やかに歯科口腔外科で診てもらうことをおすすめします。
歯科医歴:11年
出身校:東京歯科大学