口が開けられない!? 炎症や骨折など、開口障害で考えられる原因と治療の方法

口が開けられない!? 炎症や骨折など、開口障害で考えられる原因と治療の方法

開口障害とは、口が大きく開かなくなる、あるいは口を開けられなくなる症状全般を指します。あご周辺の外傷や骨折など、直接的な原因が自分で分かるものもあれば、あご周辺の炎症や膿瘍(のうよう)、腫瘍などといった疾患が、根本的な原因となっていることもあります。また、現代人に急増している顎(がく)関節症の可能性もあります。この記事では、開口障害を引き起こす可能性のある疾患を詳しく紹介したうえで、歯科口腔外科で扱う疾患とその治療法、さらに顎関節症の症状や原因、治療法について、詳しくお伝えいたします。

 

この記事の目次

1章 開口障害を引き起こす疾患は?

開口障害になると、大きく口を開けてあくびをしたり、笑ったりすることが難しくなるだけでなく、症状の程度によっては、食事や会話さえも困難になることがあります。ここでは、開口障害をもたらすさまざまな原因について、ご紹介しましょう。

 

開口障害のさまざまな原因

 

・顎関節症

近年、若い女性を中心に潜在的な患者数が増加しているといわれているのが顎関節症です。顎関節のクッションとなる関節円板がズレることによって、開口障害をはじめ、あごを動かす時にシャリシャリ、カクカクといった音が鳴ったり、痛みを感じたりするといった症状が見られます。

 

・あごの筋肉の炎症や障害

親知らずの周囲炎や膿瘍(うみがたまる疾患)などが原因となって、あごの筋肉が炎症を起こすことで口が開きにくくなることがあります。また、外傷による筋肉の炎症や筋ジストロフィーといった疾患なども、要因として挙げられます。

 

・顎の骨折や炎症

下あごの関節突起骨折や頬骨の陥没骨折といった、お口の中やあご・ほおの外傷ややけどによって筋肉の持続的な収縮や、関節の動きが狭まることで、口が開かなくなることがあります。また、顎骨周囲炎など、顎骨の炎症も開口障害の要因になります。

 

・中枢神経性の開口障害

中枢神経に問題があることで、開口障害につながるケースもあります。けいれん性とまひ性の障害に分けられ、けいれん性では破傷風やてんかん、脳出血、脳腫瘍といった疾患が上げられます。また、まひ性では神経炎や急性小児まひなどが開口障害の原因になります。

 

・腫瘍性の開口障害

お口の中の腫瘍や、咽頭、耳下腺などの腫瘍が大きくなることによって、周辺組織を圧迫し、口が開きにくくなることがあります。

 

2章 歯科口腔外科でさまざまな疾患に対応できます!

開口障害は歯科口腔外科で広く対応できます

歯科口腔外科では、1章でご紹介した中枢神経系の開口障害や筋ジストロフィー以外の、開口障害に関わる多くの疾患を診療することができます。従って、開口障害が見られた場合にはまず歯科口腔外科で診てもらい、その原因を診断することが得策です。

 

開口障害を伴う疾患はどのように治療する?

 

・炎症

膿瘍や顎骨炎など、細菌が原因となる疾患では抗菌薬を投与することが治療の基本となります。炎症が膿瘍を形成している場合には、患部を切開してうみを排出する手術も必要です。特に、顎骨炎は重症化すると敗血症を引き起こすリスクもあるので、早期に対処すべき疾患です。

 

・あごの骨折

あごの骨折は、その程度や上あご、下あごといった部位によっても異なりますが、かみ合わせやそしゃくの異常、顔の変形などが見られない場合には経過観察を行います。かみ合わせやそしゃくに異常がある場合には骨折部位を整復して、上あごと下あごをワイヤなどで定位置に固定する顎間固定が基本治療となります。

 

・軟組織の外傷
軟組織の外傷では患部の消毒と縫合が基本ですが、感染症を起こすと傷跡が残り、部位によっては開口障害につながる可能性もあるので、抗菌薬の投与が必要となります。

 

・口内の腫瘍

口内の腫瘍にも、良性と悪性(がん)があります。どちらの場合も、腫瘍の外科的な切除が基本的な治療法となりますが、がんで転移(血管やリンパ管を通じて、他の部位に広がること)が見られる場合には、化学療法や放射線療法を併用します。

 

・顎関節症

顎関節症は、開口障害を引き起こすもっとも身近な疾患であるといえます。かみ合わせの悪さや、かみしめる癖、悪い姿勢、ストレスなどいろいろな原因があり、その原因によってさまざまな治療法があります。顎関節症の詳細については、3章・4章でご紹介します。

 

 

3章 近年急増する顎関節症ってどんなもの?

1章でご紹介した通り、顎関節症は顎関節のクッションの役割をしている関節円板のズレによってもたらされる疾患です。ここでは、顎関節症の開口障害をはじめとしたさまざまな症状や、顎関節症の原因について、詳しくご紹介します。

 

顎関節症の症状

 

・開口障害
関節円板のズレによって顎関節本来の可動域が狭くなり、口を大きく開けづらくなります。通常、手の人さし指から薬指までの3本が縦に入る程度口が開くものですが、顎関節症では大きく口を開いても指2本程度で、重い場合は指1本程度しか口を開けない場合もあります。

 

・あごの異音

顎関節症では、あごを動かす時に耳元で異音を感じるものです。シャリシャリ、ザラザラと擦れるような音がする場合は、関節円板がズレて顎関節自体が擦れあっている状態です。また、カックンカックン、コッキンコッキンという音は、顎関節が途中で引っかかって戻るときに出る音です。

 

・あごの痛み

顎関節症の痛みは主にあごを動かした時に痛むもので、あごを動かす筋肉が痛むケースと、顎関節自体が痛むケースがあります。なので、あごを動かさない時に痛みが出ることは少ないものです。

 

・あごの筋肉の硬直

あごの筋肉が緩まず、筋肉が常に緊張することであごの筋肉がこわばってしこりのように感じます。いわば、肩こりと同じような状態です。

 

・左右のあごがズレて開く

例えば、右側の顎関節の関節円板がズレている場合には、口を開ける時に右側だけ引っかかる形になります。従って、口を徐々に開けていくと左側はスムーズに開くのに対し、右側が引っかかりながら開くので、左右のあごの開きに時間差が生じます。

 

 

顎関節症のさまざまな原因

 

・左右に偏ったそしゃくの癖

思い当たる方が多いと思われるのが、そしゃくの偏りです。これは、歯の左右どちらかのかみやすいところを中心に食べ物をかんでしまうといった癖です。このような癖があると、あごの筋肉を左右均等に使わなくなり、ひずみが出てきます。

 

・悪いかみ合わせ

そしゃくの癖にも通じるところがありますが、歯のかみ合わせが悪いと、やはりかみやすいところとかみにくいところがでてきます。もともとの歯並びが悪いケースもあれば、詰め物やかぶせ物の高さが合っていない可能性もあります。

 

・食いしばりや歯ぎしり

無意識に、歯を食いしばってしまう、歯ぎしりしてしまう癖がある場合は、あごの筋肉の緊張状態が続き、顎関節に大きな負担がかかります。根本的な治療には癖の改善が必要で、ストレスが影響していることもあります。

 

・悪い姿勢などの生活習慣

日常的な癖も、毎日積み重なるとあごに思わぬ負担をかけることになります。代表的な例としては、ほおづえ、横向きやうつぶせで寝る、テレビを見ながら首を横に向けた状態でのそしゃくといった生活習慣などが上げられます。

 

 

4章 顎関節症の主な治療法

顎関節症は、3章でご紹介したようなさまざまな原因があり、これらが複合的に組み合わさって引き起こされることもあります。従ってケースによっては、原因をなかなか特定できず慢性化してしまう場合もあります。ここでご紹介するのは主に顎関節の負担の軽減、または顎関節の不具合を直接的に改善する治療法ですが、日常的な癖が原因となっている場合には、それを改めることが肝心です。

 

スプリント療法

専用マウスピースを使って、あごにかかる負担を軽減する治療法です。食いしばりの癖や、食事以外でも上下の歯が接触している状態ではあごへの負担が蓄積していきます。マウスピースを付けることで、こうした負担が和らぎ、症状の緩和につながりますが、基本的には症状の悪化を食い止めるための治療です。

 

患部を温めるホットパック

慢性的な顎関節症などで用いられる治療法で、患部をホットパックで温めることで、あごの組織の血行を促し、筋肉の緊張状態を和らげるものです。ただし、顎関節に炎症がある場合には、炎症を悪化させるリスクがあるので、自己判断でおこなうのは避けたいところです。

 

運動療法

あごの関節円盤のズレや筋肉のひずみを、定められたあごの運動をおこなうことによって改善するのが、運動療法です。口を大きく開けて、あごを前方に突き出しながら口を閉じるなどエクササイズを毎日おこなうことで、顎関節の機能を改善していきます。

 

関節腔洗浄

顎関節の関節腔(関節の可動部を包む膜の内部)に老廃物がたまることで、顎関節の動きが悪くなることがあります。この場合は、関節腔を生理食塩水で洗浄することで老廃物を除去して、顎関節の動きをスムーズにします。

 

関節鏡視下手術

外科手術が必要となるケースもあります。これは、顎関節が癒着、または関節円板が変形していることによって顎関節の動きが悪くなっているような状態です。この場合、関節鏡という関節用の内視鏡を使用して顎関節の手術をおこないます。

 

認知行動療法

食いしばりの癖などを緩和する場合、あごへの負担を軽減するためにスプリント療法などがおこなわれますが、癖が改善しない限り根本的な解決にはなりません。認知行動療法は、無意識におこなってしまう悪い癖をまず自覚することから始め、意識的に癖を改めていく治療法です。

 

薬物療法

筋肉の緊張感をとり、筋肉をリラックスさせるような作用を持つ薬剤を投与することで、特に若い年齢で軽度の顎関節症は早期に改善されることも多いようです。痛みを伴う際には消炎鎮痛剤も併用します。 また心因性の顎関節症が疑われる場合には向精神薬を処方する場合もあります。

 口が大きく開きにくい開口障害には、顎関節症が原因となっていることが多いものです。しかし、顎関節症以外にも、炎症や膿瘍、腫瘍など、さまざまな原因があるので、口が開きにくいと感じたらまずは歯科口腔外科に相談してみましょう。歯科口腔外科では、開口障害を引き起こすさまざまな疾患を広く扱っているので、原因を特定するにも治療をおこなうにも適当だといえるでしょう。

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監修日:2017年09月24日
遠藤三樹夫 先生監修
経歴・プロフィール

出身校:大阪大学
血液型:O型
誕生日:1956/11/09
出身地:大阪府
趣味・特技:料理