歯周病がうつるってホント?感染経路の解説と、治療法の詳細

歯周病がうつるってホント?感染経路の解説と、治療法の詳細

歯周病は、「歯周ポケット(歯と歯茎の隙間)」で歯周病菌が増殖し、最終的には歯を支える骨―歯槽骨が溶けていく病気です。歯周病菌によって引き起こされる感染症ですから、「うつるのではないか」と心配している人もたくさんいます。

 

歯周病は痛みがないまま進行し、やがて歯が抜け落ちることから、「虫歯より歯の喪失リスクが高い疾病」とされています。また、糖尿病・動脈硬化など、全身疾患との関連性も指摘されており、歯だけの問題ではありません。

 

こちらの記事では、「歯周病は人にうつるのか?」をはじめ、口腔環境・全身の健康を守るための「歯周病に関する基礎知識」をお届けしたいと思います。

 

この記事の目次

1.人から人に感染…!歯周病はうつる

まず、歯周病の有病率を確認してみましょう。日本における有病率は20代で約70%、30~50代で約80%、60代で約90%となっています。つまり、年齢が上がるにつれて、歯周病菌に感染している人の割合が増えているわけです。

 

ちなみに、生まれたばかりの赤ちゃんの口腔内には、歯周病菌も虫歯菌もいません。生まれたときにはゼロだった歯周病菌が、何らかの要因で入ってきて、そのまま定着していることになります。

 

以上を踏まえると、「歯周病菌がうつる」という事実は明白であると言わざるを得ません。後天的に感染しているわけですから、「うつる」のは確かです。問題になるのは、「どのような経路でうつるのか」です。

 

1-1 歯周病菌は人から人にうつる!

歯周病菌というのは、単一の細菌ではありません。「歯周病を引き起こす細菌」の総称です。実際、歯周病菌はポルフィロモナス・ジンジバリス菌、トレポネーマ・デンティコラ菌、アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス菌などをはじめ、10種類以上が知られています。

 

このうち、ジンジバリス菌は進行した歯周病にかかっている人の6~7割から見つかる「代表的な歯周病菌」です。親子・夫婦など、長期間にわたって一緒に生活をする人たちの間で感染することが知られています。

 

アクチノミセテムコミタンス菌は、大人から大人には感染しません。大人から「永久歯が生えそろっていない子供」に感染する歯周病菌です。子供のころは口腔内の細菌のバランスが安定しておらず、容易に外部からの感染を起こすのです。

 

1-2 最大の感染経路は、母子感染!

虫歯菌・歯周病菌とも、最大の感染経路は母子感染です。歯周病菌を媒介する感染源は、唾液です。母親と乳幼児が食器(特に箸・スプーンなど)を共有したり、キスをしたりすると、歯周病菌が子供へとうつるわけです。昔は母親が噛み砕いた食べ物を口移しで与える習慣があったので、今よりもっと歯周病菌がうつりやすかったでしょう。

 

1-3 恋人・夫婦間でも歯周病菌はうつる…!

歯周病がうつるのは、親子間だけではありません。恋人・夫婦間でも、食器の共有・キスなどを通じて感染することがあります。ちなみに、女性ホルモンを好む歯周病菌がいることから、女性のほうが歯周病になりやすい…とされています。

 

2.自覚症状から歯周病の進行度をチェック!

冒頭でも記述したとおり、歯周病はほとんど自覚症状がないまま進行していきます。「痛くないから何ともないだろう」と考えていると、ある日、歯がグラグラしはじめる…という恐れもあるのです。歯がグラグラすることを「歯の動揺」と言いますが、この段階に至った歯周病はすでに重度歯周病です。重度歯周病になった歯を救うことは、決して簡単ではありません。

 

2-1 見逃さないで!初期~軽度歯周病の兆候

早いうちに対処すれば、歯周病で歯を失うことは避けられます。歯周病は歯周ポケット内で歯周病菌が増加することで進行していきます。進行すると歯周ポケットが深くなるので、「歯周ポケットの深さ=歯周病の進行度」と判断することが可能です。軽度歯周病は、歯周ポケット4mm程度までを指し、この段階なら正常値(歯周ポケット3mm以内)まで回復させることもできます。

 

軽度歯周病の症状
・歯磨きのときに出血
・歯茎が腫れる
・歯茎が赤っぽく変色

 

軽度歯周病の治療法
歯周ポケットが4mm程度であれば、一般的には「スケーリング」がおこなわれます。「スケーラー」と呼ばれる鉤状の器具を歯周ポケットに差しこみ、歯根に付着した歯石を除去します。歯周病菌の住み処をなくす形で、歯周病菌を減少させる治療法です。

 

2-2 明確な自覚症状が出始める!中等度歯周病

中期歯周病になると、自覚症状が出てきます。歯を支える歯槽骨が溶けてきて、歯周ポケットは6mm程度まで深くなります。

 

中等度歯周病の症状
・歯茎が下がり、歯が長く見えるようになる
・歯磨きのときの出血量が増加
・歯茎が赤黒く腫れるようになる

 

中等度歯周病の治療法
歯周ポケットが6mm程度の場合、「ルートプレーニング」を実施することが多いです。「キュレット」と呼ばれる器具を用いて、歯周ポケットの奥深くにある歯石を取りのぞいていきます。痛みを伴うことも多いので、麻酔をするのが普通です。

 

そのほか、「歯周ポケット掻爬術」が選択されることもあります。スケーラーで、歯周ポケット内部にある歯石と「歯周病菌に汚染されたセメント質」を除去します。セメント質というのは、歯根(歯茎に隠れた部分)の表面を覆っている層です。歯根表面には、エナメル質の代わりにセメント質があるのです。歯周ポケット掻爬術は歯周外科手術になるので、局所麻酔下でおこなわれます。

 

2-3 今すぐ対処しないと歯を失う…!?重度歯周病

歯周ポケットが7mmを超えてくると、重度歯周病です。歯槽骨は半分~2/3ほど溶けてしまい、歯を保存できるかどうかの瀬戸際といえます。

 

重度歯周病の症状
・歯がグラグラしてくる
・歯茎がぶよぶよになる
・口臭が強くなる

 

重度歯周病の治療法
重度歯周病の場合、歯周外科手術が必要になります。麻酔をかけて歯茎をはがし、不良肉芽組織(炎症を起こした組織)と歯石を取りのぞく「フラップ手術」をおこなうことが多いです。直接、目で確認しながら歯石を除去するので、除去効率が高くなります。欠点は、歯周ポケット内の肉芽組織(歯茎)を切りとった影響で歯茎が下がることです。

 

歯槽骨が溶けている場合、「骨誘導再生法」がおこなわれることもあります。骨を再生する部位にスペースを作り、「患者さん本人の骨」「人工骨」を入れるなどして再生を図ります。

 歯周病は人から人にうつる感染症の一種です。「10秒のキスで8000万の細菌がうつる」という報告もあり、恋人間・家族間での感染は避けられない部分もあるでしょう。ただ、適切な口腔ケアをおこなっていれば、歯周病を予防することは十分に可能です。歯磨き習慣の見直しに加え、予防歯科を標榜している歯医者さんの受診など、あらゆる手段で歯周病を予防するように心がけましょう。

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監修日:2017年12月11日
貝塚浩二 先生監修
経歴

1980年 岐阜歯科大学 卒業
1980年 (医)友歯会ユー歯科 箱根、横浜、青山、身延の診療所に勤務
1984年~1994年 アクアデルレイ ダイビングショップ 非常勤スタッフ
1985年 コージ歯科 開業
1996年 日本大学松戸歯学部生化学教室研究生
~2002年 歯学博士
2014年 昭和大学  客員講師
現在に至る