動脈硬化も? 歯周病とさまざまな全身疾患の関係性について【医師監修】

歯の健康は、全身の健康につながっています。歯が悪く、しっかり噛めなければ、消化吸収が悪くなり、栄養状態の悪化や、体の機能や体力の低下を招くからです。それだけではありません。近年では歯周病が、動脈硬化や糖尿病など、生活習慣病として考えられてきた全身性の疾患に、幅広く関わっていることが明らかになりつつあります。
この記事では、歯周病が一つの要因と見られるさまざまな全身疾患をはじめ、逆に歯周病の進行に関わると見られる全身疾患、歯周病の基本的な治療法などについて詳しくご紹介します。口内の健康はもとより、全身の健康を維持するための見逃せないポイントとなるはずです。

 

この記事の目次

1章 全身疾患に及ぶリスクが高い歯周病

全身疾患のうち、歯の疾患が関連していると現時点で考えられるケースに焦点を当てて見ていきます。歯の疾患が関わり、全身性の症状など、歯以外の部位に問題を引き起こすものとされているのは、主に歯周病が考えられます。

 

歯周病が関わる全身疾患

歯周病菌の毒素が歯茎に炎症を引き起こしたり、歯を支える歯槽骨に影響を及ぼしたりする疾患が歯周病です。歯周病菌は1種類ではなく、実は数百種類にも及びます。歯周病を放置すると、多数の歯を失う原因になることがありますが、それだけでなく、以下でご紹介する疾患は、血流を通じて体内に広がった歯周病菌やその関連物質が関わっているとされています。

 

・動脈硬化

動脈硬化とは、動脈が固くなり、血管の柔軟性が失われて、血液の循環の悪化を引き起こすものです。飲酒や喫煙、運動不足、コレステロールがたまりやすい食生活などの生活習慣が要因とされてきましたが、近年では、歯周病の原因菌などの、細菌の感染も関わっていると見られています。

 

歯周病菌などが、動脈硬化を引き起こす原因物質を出すことで、動脈を固くするだけでなく、血管の内側にプラーク(おかゆ状の脂肪性物質)を作り、血液の通りを悪くしたり、血管を塞いでしまったりするものとされいます。これにより、周囲の組織に酸素や栄養が行き渡らなくなったり、血管がもろくなり破れやすくなったりします。

 

・狭心症

狭心症は、冠動脈という心臓に栄養を送る血管が、狭くなってしまう疾患です。これにより、心臓に酸素や栄養や行き渡らなくなり、胸部の痛みや、胸の圧迫感といった症状が見られます。狭心症は、動脈硬化が心臓の冠動脈に発症したもので、脂肪の多い食事や喫煙、お酒の飲み過ぎなどによる生活習慣病といわれてきましたが、歯周病菌も関連していると考えられるようになってきました。

 

・心筋梗塞

心筋梗塞とは、心臓の血管が完全に詰まってしまうことによって、心臓の筋肉が働かなくなってしまう疾患です。動脈硬化がもたらす疾患の一つです。動脈硬化や狭心症と同様に、歯周病の原因菌がその要因に関わっていると考えられるようになってきました。

 

・脳梗塞

脳梗塞の要因も、歯周病の原因菌のプラークが関わっているとされています。歯周病にかかっている人は、そうでない人のおよそ2.8倍程度も、脳梗塞になりやすいといわれています。動脈にたまったプラークや血の塊が、脳の血管を詰まらせることで、運動障害や感覚障害、言語障害、視覚障害など、さまざまな症状をもたらします。

 

・低体重児早産

早産による低体重児出産には、年齢やアルコール摂取、産科器官の感染症などが考えられてきましたが、歯周病に罹患している場合、低体重児や早産のリスクが高くなることが指摘されるようになってきました。血中に入った歯周病菌が、胎盤を通じて直接胎児に影響し、こうした早産を招くリスクがあり、その危険率は実に7倍にものぼるといわれ、タバコやアルコールなどよりも、はるかに高い数字を示しています。

 

・誤嚥性肺炎

誤嚥性肺炎とは、口内に常在する細菌が気管に入ることで起こる肺炎です。高齢者に多く、嚥下障害(飲み込む動作の不具合や障害)などによって、食物が気道に入ることから発症します。特に、誤嚥性肺炎を引き起こす細菌は歯周病菌であることも多く、口内環境が悪化し、口内で歯周病菌が増殖していると、誤嚥性肺炎のリスクが高くなります。誤嚥性肺炎による高齢者の死亡率は高くなっています。

 

・関節炎や腎炎

関節炎や腎炎は、黄色ブドウ球菌や連鎖球菌の感染によって発症するものです。これらの菌は、口内にも多く存在するもので、歯周病菌の出す炎症物質とともに、血液の中に入り込むことで、関節炎や腎炎を引き起こすことがあります。

 

・糖尿病

糖尿病は、血糖値を抑えコントロールするインスリンの分泌やその働きが悪くなることで発症する疾患です。歯周病菌が血中にあることで、血液中のTNF-α(脂肪から産出されるタンパク質の一種)が増加し、これがインスリンの働きを抑制することが分かっています。うまり、歯周病は糖尿病の要因にもなると考えられているのです。また、内臓脂肪が多い場合、TNF-αも多く産出することになります。従って、メタボリックシンドロームは、歯周病と結びついて、糖尿病を悪化させる要因にもなると見られています。

 

2章 全身性の問題が関連する歯の疾患

1章では、歯周病菌が引き起こすと見られるさまざまな全身疾患をご紹介しましたが、この章では逆に、全身疾患が歯周病を及ぼすと見られるケースについて、ご紹介しましょう。

 

糖尿病

糖尿病は進行すると、抹消神経の障害や、網膜の損傷による視覚障害、腎不全などを引き起こします。それだけでなく糖尿病がある人は、体の抵抗力が低下し、歯周病を患いやすく、歯周病が悪化しやすくなる傾向が報告されています。前述した通り、歯周病は糖尿病の要因になり、糖尿病は歯周病を悪化させる要因になるという形で、お互いに悪い影響しあっているといえます。

 

妊娠性歯肉炎

妊娠性歯肉炎とは、妊娠期に発症しやすい歯肉炎です。妊娠期に分泌される女性ホルモンの1つであるエストロゲンが増加することで、特定の歯周病菌が増えやすくなり、歯肉炎を引き起こします。特に、妊娠中期から後期にかけて、この妊娠性歯肉炎が発症しやすくなります。

 

骨粗鬆症

骨粗鬆症は、骨がもろくなる疾患で、患者さんのおよそ9割が女性となっています。特に、閉経後の骨粗鬆症は、女性ホルモンの1つであるエストロゲンの低下が原因となっています。エストロゲンは、骨の新陳代謝に関わっているからです。また、エストロゲンの低下は、歯を支える歯槽骨も弱くします。歯周病菌の出す物質は、歯槽骨を痩せさせ、さらに骨粗鬆症によって歯周病が進行しやすくなると見られています。

 

3章 そもそも歯周病とはどんな病気?

日本人が歯を失う最大の原因

歯周病は、日本人が歯を失う最大の原因となっています。歯周病の原因は、口内に住みついた歯周病菌で、菌の出す毒素が、歯肉に炎症をもたらしたり、歯を支える歯槽骨を痩せさせたりするものです。

 

歯周病にも、その進行に応じて、歯茎の腫れや炎症、口臭などさまざまなサインが見られますが、重症化するまでは、特に歯医者さんに駆け込まなければならないような、強い痛みなどがありません。歯の動揺が始まり、噛む時に痛みがでる頃には、かなり歯周病が進んでいる状態となります。

 

歯医者さんを予防目的で定期的に利用する意識が低い日本では、歯周病が重くなるまで放置してしまうケースが多いのです。

 

歯周病菌は数百種類もある!

歯周病菌は、1種類ではなく、およそ300種類あるといわれてきましたが、近年では、およそ800種類にも上るともいわれています。歯周病菌の棲み家となるのは歯垢や歯石で、歯垢1ミリグラム中には、歯周病菌を含め、約10億個もの細菌が住んでいます。

 

また歯石は、歯垢が血液のミネラル分などと結合して固まったもので、歯垢と同じく細菌の温床となります。歯垢は、歯と歯茎の境目に付着しやすいものですが、やがて歯と歯茎の間に入り込むようになり、歯周ポケットを作ります。さらに、歯周ポケット内にも歯石ができ、歯周病の棲み家が拡大していきます。

 

どうして歯周病菌が全身に回るのか?

歯周ポケットが深くなり、歯周病菌が繁殖すると、細菌の侵入を防ぐために、その周囲に血液が集まり、炎症を起こした歯周ポケットの周囲では、腫れや出血、膿などが見られます。そして、歯周病菌やそれが放出する毒素、炎症物質などが、血液中に侵入しやすくなります。かくして、血液を通じて次第に全身に広がり、前章でご紹介したような、さまざまな疾患を引き起こす、あるいはその疾患と影響し合う要因となるのです。

 

4章 歯周病の唯一の治療法

歯周病菌は原因不明の難病ではなく、その原因は歯周病菌によるものであることが明らかです。つまり、口内の歯周病菌を繁殖させず、その数を抑えることが、唯一の治療法となります。日々の的確なセルフケアと、歯医者さんでの定期的なクリーニングを継続することが、歯周病を治療し、予防する最善の方法なのです。歯周病の基本的な治療法を見ていきましょう。

 

治療は歯周病菌を抑えることに尽きる!

・歯石のスケーリング

前述した通り、歯石は歯周病菌の温床となるもので、それを取り除くことが、歯周病で欠かせない基本治療となります。鋭利な刃先のスケーラーという器具を使って、歯や歯周ポケット内の歯石を取り除きます。これをスケーリングと呼びます。

 

・フラップ手術

歯石が歯周ポケットの奥深くにあり、スケーラーでは除去できない場合には、歯肉を切開して、深いところにある歯石を除去します。これがフラップ手術です。

 

・歯槽骨の再生治療

歯周ポケットが深くなっているところは、歯を支えている骨が痩せて後退しているものです。骨が痩せたところに、人工の骨やエドムゲインというタンパク質を入れることで、骨を再生することも可能です。これにより、深くなった歯周ポケットを改善できることがあります。

 

・歯医者さんでのクリーニング

歯周病は、一度治療したら、それでずっと安心できるというものではありません。歯周病菌を完全に取り除くことは困難ですし、歯垢をためれば、また歯石が形成され、何度でも再発するものです。つまり、歯周病の治療や予防は生涯続けるものなのです。日々のセルフケアをきちんと行い歯垢をためないことに努め、口内環境を健全に保ち、定期的に歯医者さんで歯の隅々までクリーニングしてもらうことが大切です。

 歯周病は、歯肉や歯を支える骨に関わるだけでなく、実にさまざまな全身疾患と関わっています。特に、注目したいのは動脈硬化や、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞、糖尿病などといった疾患にも、影響していると見られていることです。

そう考えると、ちょっと怖い感じがしますが、逆に、歯周病を遠ざけておけば、こうした全身疾患のリスクを一挙に少なくできるとも考えられるのです。定期検診の受診と歯周病の治療は、日々のセルフケアも含めて一生涯、地道に続けるものと考えれば、歯の健康はもとより、全身の健康維持にもつながるはずです。

今日、求めていた歯医者さんが見つかる

 

 

 

監修日:2017年11月16日
鄭尚賢 先生監修
経歴

歯科医歴:11年
出身校:東京歯科大学